「夢の辞書」の由来


そもそも、精神分析学の解釈では 夢に出て来る犬とゆーのは実はお父さんのことなんですよ、 などということを解説した本というのは、 なんら珍しいものではありません。 最近はフロイトよりも ユングのほうが人気があるようで、 難解な分析心理学の夢の解釈についてわかりやすく解説した本も 簡単に手に入りますし、 「夢占い」みたいな本は別にしても、 しっかりした心理学の立場から書かれた本も 何冊かは文庫にもなっています。

しかし、治療や分析などの有意義な目的ではなく、 単に夢の話で遊びたい、夢の話で盛り上がって面白がりたい、 という観点から見ると、 これらの本の多くはわたしにとっては満足のいくものでは ありませんでした。 むろん、 これらの本は元来このようなふざけた用途は想定していませんから、 本の側には何の責任もありませんが、 必要な項目を簡単に捜し出せない、 関連する項目を見つけるのもひと苦労、 多くは簡潔さに欠け、 個々の理論的な背景に立ち入りすぎています。

このような本の中で、 最もわたしの意図に近かったのは、 外林大作という方がお書きになった「夢判断」(光文社) という本です。 この本はカッパブックスの図書目録では「占い」に分類されていますが、 とんでもないことです。 正統的なフロイト精神分析学に基づく解釈が、 項目ごとにアイウエオ順に配置され、 最小限の具体例とともに非常に簡潔に書かれており、 この「夢の辞書」の方向を基本的に決定づけました。 この「夢の辞書」は現在も各項目の内容に至るまで、 この本から多大な影響を受けています。

このような名著があるにもかかわらず、 なぜわたしが「夢の辞書」のようなものを必要としたかというと、 紙の本は機構としてハイパーテキストリンクを提供していないからです。 わたしはコンピュータというものに触る前から 紙のノートに先の名著に独自の記述を追加して行った 「夢の辞書」を作っており、 ハイパーテキストという言葉も知らない頃から、 こーゆーものがあればいいのになあ、と考えていました。 コンピュータがどんな道具なのかがわかってくると、 「夢の辞書」のようなものは、 ハイパーテキストだったらいいのになあ、 どころではなく、 ハイパーテキストでなければならない と考えるようになりました。

残る問題はフォーマットです。 独自のフォーマットを採用し、 自分でブラウザのプログラムを書くことも考えましたし、 実を言うと、 あやうく Windows HELP 形式で書き始めるところだったのですが、 幸い Linux という OS を入手し、 HTML を利用する環境を揃えることができました。

こうして Linux 上で lynx を使ってブラウズすることを意図した 最初のバージョン(「夢の辞書 Rev.1.1」)が完成した時点では、 他人に公開することはまったく考えていませんでしたし、 まして、自分がホームページを開設するなど思ってもみませんでした。 ところが、何かの拍子に 実はこーゆーものがあるという話をすると、 意外に多くの人が「夢の辞書」に興味を示すことに気がつきました。 しかし、わたしには「夢の辞書 Rev.1.1」で遊ぶには 少なくともフロイト理論の初歩は 理解している必要があるように思えました。 と言うより、使いようによっては 非常に危険な玩具にもなりかねないと考えました。 「夢の辞書 Rev.1.1」には、 「超自我による変形」などという記述はありますが、 「超自我」という項目はどこにもありません。 自分だけが使うものですから必要を感じなかったんです。 なにしろ、この遊びの対象は生身の人間ですから、 超自我が何だかわかってない人が他人の夢の話を聞いて、 「それはですねー」なんてやり出したら、そりゃ怖いですよ。 そんなわけで、 興味を示してくださった方には申し訳なかったのですが、 Rev.1.1 はほとんど誰にも公開していません。

Linux 版「夢の辞書」は、少しずつ修正を加えながら、 現在 Rev.2.xx となっており、 これは限定的な公開も考慮していましたので、 精神分析学の基礎的概念(たとえば「心的外傷」から 「阿闍世複合体」なんて項目もあります)に加えて、 アドラーの説に基づく解釈や、 分析心理学の用語(たとえば、「太母」「老賢者」)等の項目を追加し、 これらと夢の「単語」のそれぞれの学派の解釈とが 複雑なディレクトリツリーの中で絡み合っている というとんでもない代物です。 これだったら公開できるかとゆーと、これもぜんぜんダメなんです。 「夢の辞書 Rev.2.xx」は、 わたしが常に持ち歩いているノートパソコンの中に(だけ)入っています。 公開はいたしません。 なぜなら、 わたしは精神分析学の初歩的な概念は理解しているつもりですが、 それを他人に説明するような能力も知識も ぜんぜん持ち合わせていないからです。 なんでもそうですが、自分が理解しているということと、 それを他人に説明できるということはまったく別のことです。 基礎的な概念の説明ほど専門的な知識に基づく 正確さと厳密さを要求されます。 これは到底わたしなどの手には余ることです。

でも、「夢の辞書」そのものは文句なく面白い。 こいつの存在を知ってる人たちからは、 見せろ公開しろコピーさせろ使わせろという話がたくさんある。 ほんとは絵を見てもらいたくて始めたホームページだけど、 あるいは客寄せにもなるかもしれない、などとゆー下心まである。 そこで考えたのが、 基礎知識について詳細に記述することよって 理解を深めていただく、 とゆーのとは正反対の方法で、 「Linux 版 夢の辞書 Rev.2.xx」から 理論的な部分をすっかり吹っ飛ばして 無茶苦茶に簡略化してしまうというものです。 フロイトとユングとアドラーが混ぜこぜになっていると混乱するので、 内容はできるかぎり精神分析学(フロイト派)に絞る。 特にユングは「夢の予知機能(予知夢)」を認めているフシがあるので、 これを安易に紹介すると「夢占い」と誤解されかねないため、 ことさら慎重に排除する。 で、「大便」は「愛情」、「葱」は「男性器」 と一意に対応しているかのごとく決めつけてしまう。 夢の文脈の例や「夢のロジックだとどーしてそーゆー意味になるのか」と いうような解説もできるかぎり捨ててしまい、 もうフロイト的な解釈としてはほとんど常識的とゆーか、 プロが書いても素人が書いても大差ないところまで切り詰めてしまう。 で、なおかつ間違ってる部分に関しては 指摘があれば速やかに修正することとして、 「すんません。ごめんなさい。素人がやったことですから」と 平蜘蛛のようになって謝って許してもらう。 それがこの「夢の辞書 ホームページ版」です。

したがって、たとえば「夢にアントニオ猪木が出てきたら、 その意味は人によって違うのではないか」などという、 要するに、 フロイトは個体差や文化的な背景を無視しすぎるのではないか、 などというありがちな疑問にも「夢の辞書 ホームページ版」は まったく答えを用意していませんし、 中には滅多やたらに「勃起した男性器」などという言葉が飛び交う フロイト流の解釈に眉をひそめられる方もいらっしゃるかもしれません。 そーゆー方は、うーん、どうしましょう?

ユング派でも性欲の力動的パワーは重視されていますが、 まあ、フロイトほどではないとゆーか、あれは難解ですが、 ある意味ではフロイトよりも口当りがよろしいところもあるので、 ユング派に近い立場の解釈を扱ってるホームページは 他にもたくさんあるんですよねー。 「予知夢」について興味がある方もユング派のほうへどうぞ。

そーゆー意味では、 この辞書の内容は古典的とゆーか、古くさいです。 また、この辞書を使って十分に遊んでいただくには、 少なくともフロイトの「精神分析学入門」と 「夢判断」をお読みになったうえで、 光文社の「夢判断」を入手されることを強くお勧め致します。

しつこいようですが、 この辞書は夢の話を楽しむことを目的としてまとめたもので、 解釈だの治療だの創造だの改善だの、 およそ建設的なことに用いられることは一切想定していません。 まして、 この辞書で遊ぶことは、 この辞書にに書かれていることを根拠に 他人を傷つけたりすることではありません。 そんなことは絶対に許されません。 「お風呂に入って体を洗ってたら 泡がどんどんいくらでも出てくるの」って 無邪気に夢の話をしてくれる女子高生に、 なにもフロイト流のミもフタもない 解釈を聞かせてあげるこたーないと思うんですよねー。

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さくいん
「夢の辞書」の使いかた